恋文参考書
「名前も〝章〟だろ?
からかわれるし、鬱陶しくて仕方がなかった」
どうして今この話をはじめたのか。
わからないけど、でも別にいいと思う。
あたしはただ、彼が落とす言葉はひとつ残らず拾いあげるだけだよ。
片手の甲で頬杖をついて、決してこちらを見ようとはしない。
だけど完全に背けることもない横顔は普段とは違う。
剣呑な雰囲気がそぎ落とされ、驚くほど綺麗だ。
「今は、本が面白いものだって知っている。読書を楽しんでいる」
「うん」
「日生が書いているものも〝嫌いじゃない〟なんてうそで、……好きだよ」
掌の中で、ルーズリーフがくしゃりと歪む。
そこに書かれていた素直じゃない言葉を撤回して、苦手なはずの正直になる、ということをしてくれる章。
「本は俺が余計なことを言って、なにかをして、傷つけることがないから。だから、好きだ」
「っ、」
「安心して人の心に触れられる」
息をそっと吸いこんで、奥歯ごと言葉を噛み締める。
それはとても、悲しい理由だ。
章は、金髪にピアス、視力が悪いだけだと判明したけど鋭い視線。
見るからにヤンキーというビジュアルをしている。
だけど、こんな見た目だけど優しいから。
……傷つけることに怯えていたんだね。