恋文参考書
ぺらり、とルーズリーフを裏返す。
話の続きを頭の中で言葉にするより先に、紙に文字を浮かべていく。
過去最高の速度で執筆しているあたしの隣は、今日も章がいる。
一昨日からあたしが手伝うことができずにいるけど、彼の調子はまぁそれなりといったところだ。
とうとうただの手紙の練習から、ラブレターがメインとなって苦悩しているみたい。
何枚もの紙を破いて、ぐしゃぐしゃに丸めていた。
とはいえそれも今、彼の手元でセロハンテープで元に戻し、広げられている。
冷静になって、捨てることはやめにして拾い上げたんだろう。
だって失敗したって、それは章の薫先輩へ向けた大切な手紙だからね。
恋文参考書を見返してうんうん唸っていたり、いつになく真剣な表情を見せる章。
シャープな頰が彼自身の頬杖でへこむ。
あたしは手出しも口出しもできず、ただ静かにそっと見守っていた。
そんな穏やかな時間が流れていた時、ふいに思い当たったことにあたしは声を上げた。
「忘れてた!」
驚いたように瞳を丸くする章のあどけない表情に心臓が1度高鳴る。
思わずぼーっと意識が奪われそうになるけど、なんとか首をふるりと振って言葉の続きを口にする。
「レターセットの用意してない!」