恋文参考書




章へのこの気持ちを告げるつもりはなくて、薫先輩とうまくいけばいいと協力を続けている。

なのにこんなふうに一緒にどこかへ出かけようとするなんて、ずるいよね。ばかみたいだよね。

揺らいで、一貫性がなくて、自分でもなにやっているのかなって思う。



……うん。そうだよ。

この誘いに下心がないと言えば、うそになる。



だけど、それでも、それはあたしの正直な心。

心の下に隠した本音が醜くても、直視できなくても、あたしの章を好きだと想う……心なんだ。



だからあたしはあたしでありたい。

言えない言葉を持つようになっても、全部にうそは吐きたくないよ。



「……日曜日、10時に駅前で」

「っ!」



落とされたその言葉の意味に、声より先に心臓が早鐘を打って応えた。



ここ最近あたしの心臓は忙しくしてばかりだ。

寿命が縮んでしまいそう、と思うほどだけど、でもこんなにも幸せな気持ちになるから。

あと10年はふわふわとこの綿菓子のように甘い気持ちで生きていられそうだから、悪くないね。



「うん!」



笑って力強く頷けば、彼も釣られたのか、かすかに頰を緩ませた。



ねぇ、ちゃんといいものを選ぼうね。

薫先輩のためだけの、章の想いを安心して乗せられるような、そんなものを見つけようね。

……あたしちゃんと、手伝うから。






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