恋文参考書
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そして、約束の日曜日。
待ち合わせの10分前に駅へと着いたあたしはきょろきょろと周りを見回す。
章はまだ……かな。
まぁちょっとはやいしなぁと思いひとり納得する。
深く息を吐き出していると、とん、と肩に触れる男の人の手。
「こっち」
「ひぅっ⁉︎」
驚きのあまり息を吸いこみ、ごほごほとむせてしまう。
涙のにじむ視界では、呆れた表情を浮かべた章がいた。
「……なにやってんの、お前」
驚いているんだよ!
うう、絶対こいつあたしのこと、ださいって思っているな。
今の自分を冷静に見つめれば否定できないけども。
落ち着いて呼吸を繰り返して、んんっと咳払いをひとつ。
……よし。
「お待たせしました!」
「……ああ」
「今日はよろしくね」
にっこりと笑って章を見上げる。
眩しそうに目を細めた彼の袖を掴み、腕を引いた。
今日のあたしの服装は、短パンと白いニット。
キャメルのダッフルコートにブーツと、いたってシンプルで普段どおりだ。
スカートはあんまり好まないから持ってないし、わざわざ用意するはずもない。
だって……デートじゃないしね。
あくまでこれは、薫先輩へのラブレターのための準備。
ただの買いものだもん。