恋文参考書








そして、約束の日曜日。

待ち合わせの10分前に駅へと着いたあたしはきょろきょろと周りを見回す。



章はまだ……かな。

まぁちょっとはやいしなぁと思いひとり納得する。

深く息を吐き出していると、とん、と肩に触れる男の人の手。



「こっち」

「ひぅっ⁉︎」



驚きのあまり息を吸いこみ、ごほごほとむせてしまう。

涙のにじむ視界では、呆れた表情を浮かべた章がいた。



「……なにやってんの、お前」



驚いているんだよ!

うう、絶対こいつあたしのこと、ださいって思っているな。

今の自分を冷静に見つめれば否定できないけども。



落ち着いて呼吸を繰り返して、んんっと咳払いをひとつ。

……よし。



「お待たせしました!」

「……ああ」

「今日はよろしくね」



にっこりと笑って章を見上げる。

眩しそうに目を細めた彼の袖を掴み、腕を引いた。



今日のあたしの服装は、短パンと白いニット。

キャメルのダッフルコートにブーツと、いたってシンプルで普段どおりだ。

スカートはあんまり好まないから持ってないし、わざわざ用意するはずもない。



だって……デートじゃないしね。

あくまでこれは、薫先輩へのラブレターのための準備。

ただの買いものだもん。






< 124 / 204 >

この作品をシェア

pagetop