恋文参考書




調子よく書いていた原稿のペースが遅く感じられるほどのはやさで、文字をルーズリーフに浮かび上がらせる。

シャッ、とまるでこすりつけているような音が、絶え間なく聞こえる。

そして『fin.』とお決まりの締めを刻めば。



「できたー!」



原稿が完成した。



ルーズリーフを10枚分以上使ったし、ゆうに1万字は超えているだろう。

ネットに上げたなら、活動しているサイトの規定ではぎりぎり中編に分類されるくらいの文量だ。



机の上に、ルーズリーフが広がる。

綺麗とは言いがたい字に、ちょこちょこ修正を入れたそれは慣れていない人には読みにくいだろう。

その上、シャーペンの芯がすれて薄汚れてしまった。

だけど、夜になる前の月の輝きのように、静かに光をはらんでいる。



んー、と大きく伸びをする。

天井に両手を伸ばしていると、隣にいた章があたしの視界に顔を出した。



「書けたのか?」

「うん!」



いやぁ、なんとか終わってよかったよ。

主人公が助けに行った先で、お姫さまが脱走に成功していてもぬけの殻だった場面を書いた時は絶望したけど。

予期せぬ方向にキャラクターが動くのはままあることだとはいえ、どうしようかと思った。



でもまぁそれもなんとかまとまって、ふたりは幸せになったわけだし。

終わりよければすべてよし! だね。






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