恋文参考書




じんわりと胸のうちからあふれる達成感。

それは持久走を終えた時よりも苦しみを乗り越えた感覚がするけど、なにとも言いがたい。

表現するには難しい。



だけどふと思う。

もしかしたら、告白することができたなら、こんな気持ちになるのかもしれないね。



にじむような辛さと切なさ、そしてとびきりの幸福。

自分を自分で褒めてあげたくなって、ぎゅって抱き締めたくなるような。

甘く広がって、力が抜けてとけてしまいそうな。

そんな、優しい気分だ。



ふにゃりとだらしなく笑うと、章が散らばっていたルーズリーフを軽くまとめる。

左上に書いておいた数字の順に並べて、とんとんと整えてあたしの前に置く。

そして驚くべきことを口にした。



「読ませろ」

「え?」

「お前の書いた話、読みたい」



たっぷり5秒は沈黙した。

いや、それ以上かもしれない。

とりあえずそれほどまでに受けとめきれない言葉で、どうしたらいいかわからない。



読ませて、ってこんな出来立ての小説を。

修正もしてないし、部員で行う誤字チェックだってまだだ。

推敲をしていないものなんて、だめだよ。

きちんと部誌にまとめた原稿とは、似ても似つかない状態のものなんて、人に読ませられるはずがないじゃない。






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