恋文参考書
ぶんぶんと勢いよく首を横に振り、無理! と拒絶を示す。
だけど章はそれをものともせず、あたしの目を通してなにを見ているのかと思うほど真摯な眼差しを抜けた。
「俺が本を好きでもおかしくないんだろ?」
いや、まぁ、そのとおりだけど。
章が本を好きなことは素敵だし、嬉しいし、否定するところなんてひとつも見つからない。
とはいえこれはかんたんに晒せるようなものじゃないんだよ。
小説を書く人間にとって、作り上げた作品は特別だ。
みんな、フィクションだけじゃないんだよ。
ファンタジーでも、主人公の性別が自分と違っても、どこかに自分を隠している。
想いを、心を、誰にも話すことができないことでも、そっと仕込んでいる。
あたしはそれを世に出すことは平気だ。
あたしが書いた、と人に言うことだって気にしない。
でも自分の中で完璧で、本当の意味での完成品だと思わないものを見せられるほどじゃないんだよ。
それなのに、ああ。
君は、それを、許せるわけがないことを求めているなんて。
そんなの、
「……わかった」
あたしが断れるはずないじゃない。