恋文参考書
走ってロータリーを抜け、本館の校舎へ。
そしてそのまま一気に4階まで駆け上がる。
はあっと荒くなる息を必死にこらえて、廊下の隅へ脇目も振らず向かう。
扉をがらり、と開けた。
「え……」
あたしがたどり着いた先。
部室にいたのは、詩乃ただひとり。
今日は活動日だから、本来ならもっとたくさんの部員がいるはずなんだけどね。
「みんなは部誌のための用紙が切れてたから、買い出しに行ったけど。彩は原稿終わったの?」
息が切れているから、という理由だけじゃなく、意図的に詩乃の問いに答えない。
うつむいたまま部室に入り、後ろ手に扉を閉めた。
唇を噛んで、その隙間から息をもらす。
「どうかしたの?」
彼女は心配そうな声を出し、席を立つ。
あたしの方へ向かう彼女の動きをとめるように、あたし、と声をしぼり出した。
「あたしね、文章を書くのが好き、話を作るのが好き」
突然どうしたんだ、と詩乃は思ったことだろう。
急に部室に駆けこんできたと思えばわかりきっていることを吐露しているんだもん。
そう思いながらも、あたしは必死に言葉を紡ぐ。