恋文参考書




切ない家族もの、リアルな青春もの、ノンフィクションに歴史もの。

それからわくわくするようなファンタジー。

たくさんの話に囲まれて生きてきた。



生み出す側に立つようになって、あたしの世界には様々な言葉があふれていることを知って。

今までだって好きだと思っていたけど、それとは違う。



言葉が重いものだということ、その重みや価値、尊さ。

あたしはよく知ってるつもりだった。

だけど本当の意味で、今、ようやくわかった気がするの。



あたしの書いたものを、章はあまりにも自然に褒めていた。

今まで言われたことのなかったことで、こんな感情を揺らされたことなんてない。



本気で言ってるかもわからないのにね。

なのに章の言葉ひとつで、こんなにも幸せになるあたしがいる。



……ううん、言葉だけじゃない。

章が表情を少しでも変えるだけで。

手紙を書くために一生懸命で、集中しているだけで。

隣にいてくれるだけで。



あたしは毎日毎日、幸せの意味を再確認している。



君って人は、本当に。



「っ、」



もう、ずるい。

ずるいずるいずるい。



……好きだよ。



叶わないと知りながら、それでも焦がれてしまうほど。

恋しいという想いごと、黙って胸を押さえこむように原稿と恋文参考書を抱き締めた。






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