恋文参考書




「ごめん」



謝りながら印刷済みの紙を持ち上げた。

そして近くの机の上でとんとん、と整える。



印刷作業は流れ作業だ。

ふみが印刷するB4の紙を必要な分だけコピー機に設置する。

そして詩乃がコピー機にB5の紙を挟み、位置やインクの濃さを調整して。

あたしが印刷が済んだものを回収する、という役割分担でしている。



あたしは印刷を待っている間、部誌にするために紙を半分に折る作業も担っているけど、たいして進みはしない。

まぁ、ほんの気持ち程度かなぁ。

もっと部員がいる日には、部室で待機している人たちであたしの代わりに折ってくれている。



そんなことをこなしながら、ぽつぽつと言葉を交わす。



「寒すぎない、これ?」

「だってもう2月だし」

「そういえば2月ってことはバレンタインですね」



さすが乙女代表ふみ。

あたしと詩乃がすっかり忘れていたイベントを話題に上がるところに女の子だなぁと思う。

あたしも性別上は女だけど、バレンタインなんて友チョコでさえ参加したりしなかったりと適当だもん。

やる気なしなんだよね。



今年は仮にも章に恋をしている立場なんだけどするつもりないなぁ、なんて考えた時。

改めてそうだ、とバレンタインを認識する。



「バレンタインじゃない!」

「え、は、はい。そうですね」

「ってことはチョコレート!」

「彩、落ち着いて話して」

「ふみは用意したの⁈」



原稿を置いて、ふみの方へと身を乗り出す。

勢いがすごいことは自分でもわかっているけど、どうしようもない。






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