恋文参考書
せっかくのイベントだもん、しかもふみには相手だっている。
付き合っていないけど、もう半分付き合っているようなものだよね。
あたしは章には渡さない方がいいけど、でもふみは違う。
いい加減一条に対して素直になって、さっさとくっついてしまえ! っといった感情を部員全員が全員抱えている。
だからふみがどうするつもりなのか、気になるんだ。
「もしかして、手作り?」
「いえ。渡すつもりしてないです」
「え」
なんでだ。
それだけの乙女思考を持っているなら最高のシチュエーションだろうに。
ふみの考えがわからーん、と頭を抱えそうになったところで、恥ずかしそうに頰を染めた彼女から答えが返ってくる。
「だって、わたしの気持ちばれちゃうじゃないですか……」
「いや、そこは告白しようか」
チョコまで渡して告白しないとか、どういうこと。
どんな発想をしているの。
散々うなりながら考えて、ひとつの結論を出す。
「……うん。よしわかった。
今からチョコを買いに行こう」
「今から?」
驚いたふたりの表情を見て、あたしは神妙に頷く。
原稿も大事だけど、他にも大事なことがある。
だってバレンタインはもう明後日だもん。
タイミングを逃したら、うまくいかないことなんてたくさんあるんだから。
うちの部の、可愛い後輩たち。
幸せになって欲しいと思うのは、当然じゃない。
「……仕方がない」
詩乃のお許しが出たところで、あたしはふたりの手を掴んでにっこりと笑った。
いざ行かん、戦場へ!