恋文参考書
さっきの木下先生の言葉の理由を手にする。
だけど、想像もしていなかったことにあたしは戸惑うばかりだ。
確かに本が好きだと言っていた。
でも、図書室も利用していたなんて聞いていなかったよ。
君はたくさんの意外性を秘めていて、離れた今でも驚かされることがある。
はあっと脱力し、肩の力を抜く。
ここの利用者は2種類にわかれる。
本にお金を出したくない。
もしくは、自分で買っているだけじゃ追いつかない。
きっと章は後者のような、そんな気がする。
「章がここに来ていたなんて、そんなのまったく知らなかったです」
「市の図書館も行っているらしいわ。
ここには最低でも月に1回は来てくれているかしら」
そんなに……。
ほお、と息を吐く。
その反応がお気に召したのか、木下先生は「金井くんが必ず来るってわかる日もあるのよ」と続ける。
「それはね、文芸部の部誌の発行日。
1年生の時から毎回、1度だって欠かしたことはないわ」
「っ!」
そういえば、今回の原稿を読んだ章は言っていた。
あたしの恋愛ものははじめてって。
今までずっとあたしの作品を読んできた人じゃないと、そんなことは言えない。