恋文参考書




『……日生の言葉は、耳に優しい』



君はあの日、そう言ってくれたね。

素直じゃなくて、ツンデレで、不器用な章のふいに落とされたまっすぐな言葉。

あたしは恥ずかしいのに嬉しくて、死んでしまいそうだと思うほど幸せで。



本気で言っているかわからないなんてそんなこと、もう少しも考えられない。

あれが、君のすべてだった。



こらえきれない衝動が胸からあふれてとまらない。

コップから流れ出て、そのまま心に吸いこまれて。

そしてあたしの言葉を奪っていって、ひどい人。



今、あたしは、愛おしいとしか言えない。

様々な表現が浮かんではこの心を伝えるにはどれも物足りない。



ねぇ。ねぇ、章。

いつも読んでくれていたって、本気で言っていたんだって。

あたしのことは好きじゃなくても、小説は想ってくれていたんだと、……信じてもいい?



再び顔を伏せる。

誰にも見せられない、知られてはいけない。

それなのに死んでしまえと願ったあたしの恋は、勝手に栄養を摂取して育っていく。



「木下先生……」

「はい、なにかしら?」

「教えてくれて、ありがとうございました」



こんなにも大切にされていたあたしの言葉たち。

きらきらと輝いて、確かに届いていたんだ。

誰かの胸で、他でもない章の胸で、息をしている。



そのことを知ることができて、本当によかった。






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