恋文参考書
部室に戻って来て、すっかり普段どおりの雰囲気にほっとする。
ゆるりと、だらりと、各々が好きに活動している。
扉を開ければ「おかえり」と声をかけられた。
うん、と頷いて、自分のいつも座る席に腰を下ろす。
リュックから取り出したのは、いつものシャーペンとルーズリーフ。
そして、恋文参考書の写しだ。
これは原稿のためにと内容をあたしのノートに書かせてもらったんだ。
さすがにあたしが恋文参考書にこれ以上書きこむこともないのに、借りておくこともできないしね。
慌てて重要な部分をメモして大変だったんだから。
いつだってあたしの作品を読んでくれていた章の物語。
恋がこの恋文参考書につまっていて、結果はまだわからない。
明後日の26日、彼が薫先輩の元へ行くまでは。
だけど章が大切にしてくれていたあたしの小説を書くために、その想いに報いるためにも、あたしは筆を取らなくちゃいけない。
だってふたりの恋を描きたい、描かせてと頼んだのはあたしだ。
ここに、確かに章と薫の話を残さなくちゃ。
元々考えていた流れをプロットにまとめる。
起承転結を考えて、伏線もこの時にしこんでおいて。
告白、と。
そうシャーペンの芯が文字を浮かび上がらせた瞬間。
あたしの手から力が抜けて、シャーペンが机の上に転がった。