恋文参考書
家に帰って机に向かいぼんやりと、ぐちゃぐちゃと、時間をぬりつぶしていく。
「……よし」
少し悩んだけれど、シャーペンを手に取った。
放課後とは違い、書きたくないもののためじゃないからペンを持つことができた。
ゆっくりとルーズリーフに言葉を刻んでいく。
プロットさえも書くことなく、もくもくと不器用に、ぐるぐると悩みながら世界を描く。
それは、あたしと、章の物語。
章があたしに協力を仰いだ時のこと、あたしたちの関係のはじまりを書いた。
本当にあったことを元に書いていると、頭を使うことがほとんどない。
あるがままを残していた。
暖房であたたかい部屋の中で何時間も時間が流れた。
とうとうラスト、どんな方向性のラストになるのか決まるというところで、シャーペンをその場に置いた。
だって、あたしと章の物語に終わりなんてない。
本当ははじまってさえもいなかったのに、終わらせるなんて不可能だ。
「薫先輩との話が書けないのに、あたしとなんてありえないってわかっていたのにね」
ふっと息を吐き出す。
重たく抜けて、体が軽くなったりはしない。
ひとりきりのあたしの部屋では、誰にも届けることができない未完成の物語が生まれた。
ルーズリーフの代わりに、机の引き出しからあるレターセットを取り出す。
それは章とふたり、文具店に行った時に買ったもの。
……章に手紙を出すならと勝手に考えていたものに、あたしが伝えたいことをこめる。
そうして次の日、25日の放課後。
あたしはその手紙を章の机の中にしこんだ。
指先がやけに冷えて、震えていた。