恋文参考書
そこにいるのは何人かの女子。
ショートカット、ポニーテール、ふたつ結び。
文芸部というビジュアルのイメージから、ふたつ結びのやつが〝ひいな〟か?
「章、のぞきはだめだよ〜。
セクハラで訴えられたいの?」
「ちょっと黙ってろ」
余計なことを言うな。
聞き逃したらどうしてくれる。
じろりと視線を和葉に1度やり、すぐに戻す。
こそこそと囁きあう外野が足早にそばに通り過ぎて行く。
そいつらに愛想を振る和葉に呆れつつ、放置することに。
「ひいなってなにそれどういうこと?」
「雛鳥の〝雛〟って〝ひいな〟って読めるんだよ。ほら、あたし、名前に〝ヒナ〟入ってるから」
そう笑ってみせたのは、俺が予想していたやつとは違い、ショートカットの女子だ。
さっぱりした雰囲気で、文学少女といった様子はまったく見られない。
まじか……とほんのわずかに戸惑ってしまう。
ペンネームの理由を知ったというのに、それが心に響かないほど意識がそれる。
だってまるでうるさそうで、面倒そうな印象を受ける。
バスケ部、バレー部、ソフト部……そんな昼まで集団で過ごしているようなイメージがある。