恋文参考書
「でもさ、彩って運動部の方が似合うよね〜。
本とかキャラじゃなくない?」
半笑いを浮かべながらの言葉にむっとする。
ポニーテールのやつに、勝手に決めつけてと腹を立て。
だけど俺も似たようなことを考えていたことに気づき、自分に反吐がでる。
俺だっていつも見た目で判断されて、喜ばしいと思ってなんかいないのに。
むしろなんだよって、気分を害しているくせに、俺の視野は狭くていやになる。
そのくせ俺は、誰にもなにも言えやしないんだ。
ぐっと唇を噛み締めて、視線を落とす。
扉の隅にたまった埃が目についた。
「あたしは文芸部だって似合っていると思っているんだけどなぁ」
「え〜、本気?」
「本気ですとも!
それに、あたしが小説を書いているのは似合う似合わないじゃないからね」
あまりにも揺らがない声につられ、そっと顔を上げる。
人差し指を立てて、自信ありげに堂々と。
彼女は不敵に笑って言った。
「あたしが書くことを、好きだからだよ」
正直で、まっすぐで、自分があって。
彼女は強く、俺にはとてもじゃないけど眩しかった。
「っ、」
こんななりで、俺は周りの目を気にしてばかり。
虚勢を張って、素直になれなくて、彼女のようには到底なれない。
だからすごいと思った。
憧れた。
……そんなふうになりたいと思った。