恋文参考書




ものが片づいた部屋は、昔の面影を失い、めったに入ることのなかったここ数年の部屋とも違う。

隅に積まれた段ボールに、すっきりとしつつある空間。

もうすぐ薫がここを出て一人暮らしをはじめることがひしひしと伝わってきて、しょっぱい気分になる。



「章が私の部屋に来るなんて久しぶりね。
どうかしたの?」



俺は学校帰りだけど、薫はもうとっくに自由登校の時期に入っていて、ここ最近はずっと学校に来ていない。

だからゆったりとした清楚なワンピース姿だ。



自分の誕生日だというのに、日付感覚まで失っているのか?

不思議そうに首を傾げている。



荷物だけは家で取り替えて来た俺の手には引越し先で使ってもらえるようにマグカップのプレゼント。

そしてもちろん、約2週間前に書き上げたラブレターだ。



日生と長いこと一緒に頭をひねり、ああでもないこうでもないと書き直した。

その時間。

どれだけ大変だったか。

どれだけ、嬉しかったか。



応援してくれた彼女にいい報告ができるかはわからないけど、薫に渡してしまおう。

想いを告げよう。

そう思うのに、どうしてだろう。

できねぇんだ。



今さら怖気づいたわけじゃない。

さすがの俺も、そこまでヘタレじゃねぇんだよ。

ただ、これでいいのかって思うんだ。



薫に書いたラブレターなのに、渡しちゃだめな気がする。






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