恋文参考書




口元に掌を寄せ、はあっと息を吹きかける。

ほんの少しのぬくもりを指先にこすりつけた。



普段は外しているリボンタイを式の時はつけなくちゃいけない。

2年生も終わるというのに慣れない感覚に顔をしかめた。



目の前で淡々と進められる予行練習は、率直に言ってつまらない。

必要なことではあるけど、卒業なんて儀式を練習して繰り返すことは簡略化しているにしてもなんだか滑稽だ。



だけど、そうだね。

今壇上に立っている薫先輩はこんな時でもなんら違和感ない。



今日は読むことのない答辞。

先生の指示どおり立ち尽くす姿。

そんな状態でさえ、彼女はとても綺麗だ。



吐息に誤魔化して、ため息を吐く。



ああ、章の好きな人は、どうしてこんなに素敵なんだろう。

ひとつも勝るところがなくて落ちこんでしまうけど、諦める理由を与えられているみたいで、……正直助かる。



壇上から降りる姿から着席する様子までまじまじと見つめ、今日も今日とてあたしの隣の席のクラスメートは不審なあたしを華麗にスルーしてくれた。

どうもありがとうね。

さすがに手をあわせることはやめておいて、内心感謝するだけにとどめた。






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