恋文参考書
定期を使って改札をくぐり、ようやく足をとめる。
膝に手を置き荒い呼吸を繰り返す。
はあっと吐いた息がいくつも白く浮かんでいく。
きゅう、とまぶたを閉じた。
緊張していたように見えた章。
骨ばった掌。
その中に大事そうに包みこまれていた、真っ白な封筒。
しゃぼん玉のように浮かんでは弾け、また性懲りもなく浮かぶ。
心が揺れて、仕方がない。
はやく家に帰って、自分のベッドの布団に入ってしまおう。
優しいぬくもりの中、なにもかも忘れて眠ってしまいたい。
そう考えていると、短く音を立てるあたしのスマホ。
深く深呼吸をして落ち着いてから取り出したそこには、新しいメッセージがひとつ入っている。
『金井がそっちに向かった』
短いそれは、詩乃からのもの。
その内容に驚き、え……と声をもらす。
『なんで?』
『本人に訊いた方がいい』
なんでだ!
今この瞬間に教えてよ!
そうじゃないと、……期待してしまう。
あたしは章の恋の協力者。
そして文芸部の〝ひいな〟。
それだけなのに、どきどきして、あたしを追いかけてくれたのかと想像して。
ここで章を待っていたいと思った。