恋文参考書
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3月4日。
ひんやりと空気は冷たかったけど、同時にとても澄んでいた。
あたしはそれを肺の奥まで目一杯吸いこんだ。
空が綺麗な水色をしていて、気持ちいいほどの晴れの日。
薫先輩や文芸部の先輩が卒業した。
卒業証書の授与、薫先輩の答辞。
自分の親しい人を見かけると、やっぱりどうしても涙がこぼれた。
だけど悲しいだけじゃなかった。
文芸部の先輩方とは式のあと、部室でたくさん話をして、きちんと見送ることができた。
一方薫先輩は引っ越し先で新生活の準備があるからとたくさんの人に惜しまれながらみんなよりはやく門をくぐってしまった。
だけど薫先輩とは、また顔をあわすことがあるだろう。
そう思うから、さみしくない。
とまぁ、そんなこんなで無事に特大イベントが終わり、あたしと章はいつものごとく図書室で待ち合わせていた。
なんてことない話をしていたはずだったのに、予想外な発言をした章に向かってあたしは大きな声を上げた。
「昨日の手紙って、あたし宛だったの⁈」
「うるせぇ」
ごめんって。
そんな態度取らなくたっていいじゃない。
睨まれてしまい、仕切り直し。
さっきよりは声のボリュームを落とし、しみじみと口にする。
「章からのラブレターか……」