恋文参考書








書き上げた文章を上から下までじっくりと読みこむ。

修正したい箇所がないことを確認したところで、手にしていたボールペンを机の上に置いた。



「……よし」



うっすらと市松模様の入った、透かし和紙が美しい。

便箋には線が入っておらず、下敷きのように専用の板を下に挟むことで、浮かび上がる線に沿ってまっすぐ字が書けるようになっている。

品のいいこれは見た目どおりのいい値段がした上等な便箋と封筒。

この日のためだけに用意したものだ。



まだ俺が高校生だった頃、彼女に習ったことは今でも俺の中に染みついている。

特別な手紙には、特別なものを。

そう言っていた彼女のあどけない表情を思い出し、懐かしく思う。



あれから、ずいぶんと時間は流れた。

あの頃の不器用さを失って、俺はそれなりにちゃんと社会人として働いているし、コンタクトをつけるようになったから目つきだって悪くない。

大人になって、いい意味でも悪い意味でも変わったことがたくさんある。

学生の頃とは違って、彼女と共に過ごす時間は減ったし、昔より素直になってもすれ違うことだってあった。



だけどそんな時、俺たちはあの頃のように、手紙を書いた。

口に出せない気持ちは、言葉にして紙に刻んで相手に届けた。

そのたびに俺はやっぱり、彼女にすごいことを教わったんだと思うんだ。






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