恋文参考書




ひゃ〜、今、詩乃の声色変わったよ!

用があるなら帰れないのは仕方がない、だけど部活をさぼる理由にはならない。

そういうことだろう。



緩い文芸部がなんとか成り立っているのは、詩乃がしっかり締めるところは締めてくれているから。

だからこういう好き勝手は彼女に許されないんだ。



とはいえ実際問題、用があるし……と冷や汗をかいていると、



「どうして?」



詩乃の声に重なり、同じ言葉が別の場所から聞こえた。

思わずそちらへ顔を向けると、そこには金井と彼の幼馴染の戸川がいる。



「どうして買いものに付き合ってくれないなんて言うのよ!
アタシのこと、もう好きじゃないの⁉︎」

「きもい」



……女口調は確かに気持ち悪いね。



色つきのピンでとめたふわふわの茶髪に、口元のほくろが色っぽい。

いつもへらへらふにゃふにゃと笑っていて、女の子が好きなチャラ男。

でも見ている限り、彼は女の子より金井のことの方が好きなんじゃないかな。



今はオネエふうの発言や仕草をしていて、お調子者にしか見えないのにこれで戸川はモテる。

女の子相手になると甘いセリフをばんばん吐き出すフェミニストだからなんだろうか。

グレーのカーディガンにいくつも空いたシャツと緩いネクタイ姿はあたしには別によくも悪くもないんだけどな。



世の女子の気持ちがわからないよ。






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