恋文参考書




「用があるっつってんだろ。ひとりで行け」

「お前におれ以外との用事があるだと⁈」



あ、普通に戻った。

いや、でも、こいつすごい言いようだよ。

遠回しに金井に向かってぼっちって言ってない?



「ちょっと彩、聞いてる?」

「え? ごめん聞いてなかった」



慌てて視線を詩乃に戻そうとすると、ばちん、と戸川と目があう。

反射のように彼はへらりとした笑みを向けてきて、思わずまばたきを繰り返した。

そうしているうちに戸川はなぜかあたしに近づいて来る。



「もしかして、章の用事って彩ちゃんと?」

「え!」



いやいやいや。

……なんで知っているんだ。



昨日、あたしは金井と明日の約束をした。

恋文参考書に綴ったとおり、今日もふたりでラブレターを書く予定なんだよね。

だからなんとかふたりきりになろうとしていたのに。



「昨日薫から聞いたよ。
ふたりが放課後一緒だったって」



薫先輩……なんてことを……。



まさか昨日の今日で話しているとは。

あたしも金井も薫先輩に口どめするの忘れていたし、彼女は嬉しそうだったもん。

秘密だなんて思いもよらず、つい戸川にもらしたんだろう。



思わず頭を抱えてしまいそうになるけど、そんなことをしてしまえば肯定したも同じ。

笑みをひくつかせるだけにとどめる。



戸川が余計なことを言うから!

詩乃の怒りが最高潮に達してるじゃない!

隣で一言も漏らさない詩乃がこわいよ。






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