恋文参考書
「ふたりで出かけないなら、彩ちゃんおれに付き合ってくれる?」
「はい?」
「デートしよう」
完熟した桃から雫が伝うような、甘い甘い笑み。
可愛げのないあたしを視線で絡めてするりと髪を耳にかけられる。
まるで恋人みたいな距離感に驚いて心臓が跳ね上がった。
それが恥ずかしくて仕方がない。
こ、このチャラ男め!
「章が冷たいんだ。彩ちゃん、慰めてよ」
あわあわと唇を震わせていると、隣の詩乃も唖然としている。
そうなんだよ、あたしたちこういうことに耐性ないんだよ。
それなのにそんないたずらはだめですって。
あたしが首をすくめるようにして固まっていると、突然、髪に触れていた戸川の指先が離れた。
「……日生はだめだ」
金井が戸川の腕を掴んでいた。
息をするように、自然に人を口説いていた戸川が目を見開く。
彼はにっと笑みを深くして、楽しそうだ。
「金井……?」
「日生はだめ、ねぇ」
どうしたんだ、と思わず彼の名前を呼んでしまう。
すると戸川が金井の言葉を繰り返し、改めてその意味を考えたあたしはもうキャパオーバー。
なにを言ってるんだよ、君は!