恋文参考書
他の人ならいいの?
戸川とデートに行っても構わないって?
……あたしだけ、なんて、そんなの。
ありえない、わかってる。
薫先輩はもっとだめなはずだし、金井は薫先輩のことが好きで、面倒なことでも彼女のためなら耐えられるくらい思っていて。
でも、理性はあたしの心を抑えつけることはできず、燃えるように体があつくなった。
戸川に触れられるよりずっと、ずっと彼の言葉にどきどきした。
……ああ、戸川よりこっちの方がよっぽどたちが悪い。
もうやだ、恥ずかしい!
なに急に恋愛ごと……いや本当の好意じゃないけど!
そういう言葉を向けられてるの⁉︎
ううう……とうなるように声をもらす。
心の中は嵐だ。台風だ。天変地異だ。
今までに見舞われたことのない騒ぎに声にする言葉が浮かばない。
「なんで金井が彩にそういうこと言っているのよ……」
「章がそういう言葉を言う日がくるなんてね。
ますます彩ちゃんに興味わいてきたな」
金井がこわいのかびくびくとしつつも、同意したくなるような詩乃の言葉には触れず、戸川が声を弾ませる。
巻きこまれた身のあたしとしては、恐ろしいだけなんだけども。