恋文参考書
いつもだったら図書室にいる時間帯。
放課後の教室で、あたしははじめて恋文参考書について金井に説明した日のように、彼と教室で向かいあっている。
突き刺すほどではない、だけど確かに鋭く冷たい空気が頬をなでた。
「なんなんだよ。
今日は図書室に行かねぇのか」
不思議そうに、不満そうに、金井が尋ねる。
それにうん、とあたしは神妙に頷いた。
あれから……金井が部室に来てから、約1週間が過ぎた。
あっという間に12月が来て、最近ぐっと寒くなったように思う。
寒い部室にいることから、文芸部員の防寒具はなかなかしっかりしている。
今は部室にあまり顔を出さない身だけど、それでもあったかいマフラーと指先だけ出せる手袋は必需品だ。
金井とラブレターを考えている時も、あたしはもちろんそれらを使っていた。
だけど、のんきにそんなことをしていられない事情がある。
「今日は手紙は書けません。
というか、しばらくできないからね!」
「は? なんでだよ」
金井の威圧感のある表情をじっと見つめる。
……どうやら本気でわからないらしい。
こいつこんなんで大丈夫なのかなぁ。
こうなれば、さくっと説明を済まして容赦なく計画を実行しよう。
「明日から、期末試験です!
手紙を書いている暇はありません!」