恋文参考書




いつもだったら図書室にいる時間帯。

放課後の教室で、あたしははじめて恋文参考書について金井に説明した日のように、彼と教室で向かいあっている。



突き刺すほどではない、だけど確かに鋭く冷たい空気が頬をなでた。



「なんなんだよ。
今日は図書室に行かねぇのか」



不思議そうに、不満そうに、金井が尋ねる。

それにうん、とあたしは神妙に頷いた。



あれから……金井が部室に来てから、約1週間が過ぎた。

あっという間に12月が来て、最近ぐっと寒くなったように思う。



寒い部室にいることから、文芸部員の防寒具はなかなかしっかりしている。

今は部室にあまり顔を出さない身だけど、それでもあったかいマフラーと指先だけ出せる手袋は必需品だ。



金井とラブレターを考えている時も、あたしはもちろんそれらを使っていた。

だけど、のんきにそんなことをしていられない事情がある。



「今日は手紙は書けません。
というか、しばらくできないからね!」

「は? なんでだよ」



金井の威圧感のある表情をじっと見つめる。

……どうやら本気でわからないらしい。



こいつこんなんで大丈夫なのかなぁ。

こうなれば、さくっと説明を済まして容赦なく計画を実行しよう。



「明日から、期末試験です!
手紙を書いている暇はありません!」






< 57 / 204 >

この作品をシェア

pagetop