恋文参考書
そういえばそうだな、なんて金井の反応は緩い。
今日まで試験勉強なんてしていないだろうに、この余裕そうな態度!
こんな様子だから成績はいいのかと思いきや、そういうわけでもないんだって。
手紙が書けるようになったって、頭の悪い男が薫先輩とやっていけるとは思えない。
金井には失礼な話だけどね。
そう思ったあたしは、ひとつの作戦を立てたのです。
ああ、あたしって優しいわ。
「というわけで! 一緒に試験勉強をしよう!」
「真面目か」
「金井が不真面目なんだよ」
短い金井の切り返しを叩き切る。
空気は軽く、彼は乗り気じゃない。
でも大丈夫。
手紙じゃないなら帰ると言い出しそうな金井のために、あたしは人を呼んであるんだ。
「お、章まだいるね」
「お待たせ、彩」
「ふたりとも掃除お連れさま!」
扉のそばから教室の中へと入ってきたのは、戸川と詩乃。
放課後の掃除当番だったふたりをあたしは笑顔で出迎えた。
「一緒に勉強しようと思って、ふたりも呼んでおいたよ」
「は?」
予想どおり低い声に、くっきりと刻まれた眉間のしわ。
怒っているなぁと思いつつ、最近金井の態度にすっかり慣れてきたあたしは気にとめやしない。
本当はあたしと金井の繋がりを見せるのはどうかと思っていたんだけど……。
でも以前に金井のせいでクラスのみんなに知られてしまったようなものだし。
詩乃なんて部室にまで来られていたし。
もう今さらかなぁと気をつかうことはやめたんだ。
恨むなら隠そうとしなかった自分を恨んでね。