恋文参考書
いやがる金井の肩を押さえ、戸川がまぁまぁと抑えつける。
ちっともなだめられてないんだけど、そのすきにあたしと詩乃でがたがたと机を移動させた。
全員の顔が見える形でぴったりと並んだ机。
まだ少し金井が苦手らしい詩乃は彼の対極の席を選んだ。
あたしはそんな彼女の正面に、戸川は金井の正面に腰をおろす。
いつも隣に並んでいたことが身体に染みついていたのか、あたしは自然に金井の隣にいた。
そのことに少し驚く。
とはいえ、そんなことに気を取られている暇はない。
試験範囲をメモしてある紙を取り出して机に置き、ノートやプリントをリュックの中から探す。
やっと見つけると、先に置いていたメモになにかが書き加えられていることに気づいた。
『クソが』
「……」
コノヤロウ。
これは完全に金井の仕業だ。
文字の向き、距離からしてこんなことができるのは金井だけ。
それに明らかに本人の字だもん、疑いようがない。
あたしが求めているのはこれじゃない。
こんな言葉は、手紙は、求めていない。
そこまで多くを望むつもりはないし、お礼を言えとは言わない。
感謝しろなんて高飛車なこと、ありえない。
だけどこの物言いは腹が立つ。
しかも人のメモに勝手に書きこみやがって!