恋文参考書




そうと決まれば、あたしがすることはひとつだ。



体ごと金井の方を向き、名前を呼ぶ。

視線だけで応える彼に向かって、あたしは言葉を吐き出した。



「薫先輩は絶対に、ばかなやつのことは好きにならないと思う」



ぴしり、魔法をかけられたみたいに金井が動きをとめる。

引きつった横顔を見ていると戸川の笑う声が教室で反響する。



そういえば詩乃たちもいたんだった。

戸川は金井の気持ちを知っているだろうと思うけど、詩乃は知らなかったのに。

必死で隠していたはずがうっかりしてたや。



「お前なぁ……」



かすかに頬を染めて、うなるように金井が喉の奥から声を絞り出す。

憎々しげだけど、そんな顔じゃこわくないよ。



「だって真実じゃない?」

「ふっ、はは、うん。おれもそう思うよ」



むっつりと黙りこんだ金井の代わりに、戸川が返事をしてくれる。



ひーひーとおなかを抱え、失礼なくらい笑っているなぁと頭の端っこで思っていたけど、ようやく落ち着いたらしい。

ゆるゆるのネクタイにカーディガン、ボタンの空いたシャツからは鎖骨がのぞいている。

笑いすぎて涙を浮かべた瞳も相まって、色っぽい。



高校生の色気じゃないよこれ……!






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