恋文参考書
『80点だった!』
ただそれだけが書きこまれたそのメモは慌てていたのは端が少し破けている。
踊るように、弾むように、流れているその筆跡は章のものだとわかり、メモを掌の中に隠した。
確かに何点なのか気になっていたし少しは態度に出して欲しいと思っていた。
変にどきどきしたし、いい気分とは言い難かった。
だけどこんな、答案用紙が返却されるようなタイミングで紙に書きこませるようなリスクを背負わせるつもりなんてなかったのに。
それなのにこんなメモを置いて。
どれだけ嬉しかったんだろう。
どれだけはやく報告したかったんだろう。
普段は冷たいくせに、こういうところだけ子どもみたい。
焦っていた分、力が抜けてしまった。
無意識に上がっていた肩を落とす。
深く息を吐き出して天井を仰ぎ見る。
図らずも求めていた手紙の書き直しが叶ったことにくすりと笑う。
ありがとうじゃないけど、まっすぐな想いがこめられているから、これでいい。
これがいいね。
掌のメモをもう1度よく見る。
誰にも見つからないようにこっそりと答案用紙の下に隠してしまう。
章ってば点数なんか手紙に書いて、ばかだなぁ。
……愛しいなぁ。
目の前の背中を抱き締めたくて、もどかしくてたまらなかった。
おめでとうと目を見て、笑って欲しいなと思った。