恋文参考書




そっか、と言葉を返す。

薫先輩はしっかりしている人だもん、ひとり暮らしをすることに不安は感じない。

もちろん女性だから心配されることはあるけど、それでも彼女が言うなら送り出すしかない。



それももう、決まっているなら家族の了承は得ているということだ。

そうなると章が口出しできることなんてないんだろう。



幼馴染としてずっと近くで過ごしてきた人が、恋しい人がいなくなる。

それはとても悲しくて、悲しくて、……勇気を出さなくちゃいけないと思うきっかけになる出来事だ。



幼い頃の章や薫先輩を少し想像してみる。

今と似ているだろうけど、子どもっぽいところや可愛いところもたくさんあったんだろうなぁ。



きっとはじまりは幼馴染でしかなくて、男女なんて関係がなかったはず。

それなら、どうして……?



ふわりと、ひとつの問いが胸の中で浮かび上がった。



「ねぇ、章。最後にこれだけ教えてくれる?」

「……なんだよ」



ここまできたら断る気なんてないらしい。

章が不機嫌そうに、それでいてちゃんと話の続きを促す返事をしてくれる。

それにあたしは安心して、そっと問いかけた。



「章はどうして、薫先輩を好きになったの?」






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