好きになれとは言ってない
通勤電車は恐怖の時間
うっ、リストラ大魔王様。
いつもより遅い時間に品川から、京急線に乗った古賀遥(こが はるか)は、あ、あそこが空いている、と座ろうとした場所から後ずさる。
そこには先に座っていたリストラ大魔王こと、新海航(しんかい わたる)が居たからだ。
航はまだ若いが、人事の課長だ。
何故、彼がそんな役職につけたのかと言うと、リストラに関する業務の一切を引き受けているからだ。
ついたあだ名はリストラ大魔王。
またの名を『人斬り新海』。
そうまでして出世したいかとみんなに嫌味を言われているようだが、本人は、さして気にしている風にもなかった。
というか、若くして役職についても、特に嬉しそうでもない。
なにを考えているのかよくわからない男だ。
「古賀、なにを後ずさっている」
広げようとしていた文庫本から顔を上げた航がそう言ってくる。
「座れ」
「はい?」
「座れ」
と繰り返される。
「……はい」
無礼討ちにされても困るので、遥は仕方なく隣に座った。
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