好きになれとは言ってない
「ねえ、遥。
朝、リストラ大魔王と話してたってほんと?」
と社食でトレーを手にした同期の朝子が訊いてくる。
「いやだ。
クビにならないでね」
と雅美が言った。
いや、話しただけで、首切られるとかないだろうよ、と昨日まで自分もそう思っていたくせに、遥は思う。
そのとき、空いている席を探していた朝子が、しっ、と話を止めた。
航が小堺たちとちょうど社食に入ってくるところだった。
航を目で追いながら、朝子が言う。
「……リストラしなきゃ、いい男なのに」
「人事課長じゃなきゃ、いい男なのに」
と同時に言った雅美に、朝子が、
「あら人事課長自体はいいじゃない。
出世頭よ。
しかも、あんな若くてさー」
イケメンなのに、残念だ、と言いたいらしい。
しかし、本人、課長になったことをさして喜んでもいなさそうなんだが、と思ったとき、航の目がこちらを向いた。
朝子たちと一緒に、ビクッとしてしまう。
「古賀遥」
と呼びかけられ、
ひいっ。
気づかないでくださいっ、と身構えると、周囲から、
あいつ、クビか?
お前、クビか?
という視線が飛んでくる。
ひいいいいいっ。