好きになれとは言ってない
「で、では、大……
 課長、失礼致します」

 震えるトレーを手に、既に移動してしまっているみんなのところに行こうとしたが、
「遥」
と呼び止められる。

 遥? と、どきりとしながら、振り向くと、航は大葉たちにからかわれていた。

「お前、なに名前で呼んでんの?
 古賀さんと付き合ってんの?」

「そういえば、今朝も話してだけど」
と笑って言う小堺に、航は淡々と言う。

「いや、好きな女にコンパを頼む趣味はない」

 うっ。

 そして、
「そうか。
 古賀が名字だったな」
と呟き、行ってしまった。

 ……大魔王様~っ!

 遥って名字、なかなかありませんよね~っ?

 この人にとっては、私は、古賀が名字か、遥が名字かわからない程度の存在なんだな、と思った。

 古賀が名字か、遥が名字か。

 蝶が私か、私が蝶か、と大魔王様に借りた本を思い出しながら思う。

 本も読み終わったから、放っただけのことだっただろう。

 おのれ、ありがとうございます、とか言うんじゃなかった。

 面白かったですっ、とか感謝するんじゃなかったーっ。

 おのれ、新海~っ! と遥は大魔王様の背を睨みつけていたのだが、みなは、航が通ると、一斉に視線をそらしていた。
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