好きになれとは言ってない
電車に乗っている間、航は饒舌だった。
好きな本の話から、身体を鍛える話から、大学時代のサークルの話まで。
天文のサークルだったのか。
山に負荷かけて駆け上がって星見てそうだが、と思いながら、はいはい、と聞いていた。
「あのー、課長の降りる駅は次なんですが。
真尋さん呼びましょうか?
それとも、一緒にうちまで来て、またお父さんに送っていってもらいましょうか?」
と言うと、
「いや、この間、お前の父親に送ってもらって、かつてないくらい緊張したからいい」
と言ってくる。
あのー、社長とも対等に渡り合っているのを見た事があるのですが。
何故、温厚なうちの父親ごときで緊張するのでしょうか、と思っていると、駅に着く直前、航がいきなり手を握ってきた。
ええっ? と思っていると、
「一緒に降りよう、遥」
と言ってくる。
「は?」
結婚しよう、ぐらいの勢いだった。