好きになれとは言ってない
「えっ?
 あの、これって、降りて次の電車、ありましたっけ?」
と言っている間に、扉が開く。

 結局、引きずり降ろされ、手をつながれたまま、鼻歌など歌われている大魔王様と駅前の繁華街を歩くはめになった。

 航の降りる駅は、真尋のところと違い、駅前はこの時間でも賑やかだ。

 いつも帰りが遅くなるから、夜、寂しくないように此処なのだろうか。

 って、この明るい中を手をつないで歩くとか恥ずかしいんだが。

 しょ、正気に返ってください、大魔王様。

 いや、この人酔ってるの、私のせいなんだが、と思いながら、遥は、がっちり手を握っている航の大きな手を見下ろし、言った。

「あのー、課長は酔うと積極的になるんですか?

 あ、でも、最初に降りようって言って、真尋さんところに連れていってくれた日は、酔ってなかったですよね?」
と確認するように言うと、

「相手に特に気がなければ、積極的に出れるんだ」
と言ってくる。

「……あのー、帰ってもいいですかね?」
と言ったのだが、航の手は外れそうにない。
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