好きになれとは言ってない
 鍵開けるときとか、靴脱ぐときとかに手を離すかもしれないから、そのとき、逃げようと思いながら、コンクリートの階段をついて上がる。

 だが、航は小器用にすべてを片手でこなしてしまった。

 やれやれ、と思いながら、玄関から航の部屋を見る。

 普通の片付いている部屋だ。

 特に面白くはないな、と思った。

 イメージ通りというか。

 よし、部屋も見たから帰るか、とそっと手を離そうとすると、
「待て」
と言われ、手に力をこめられる。

 航は振り返り言った。

「部屋に入ったから気を抜いているなんてこと、俺にはないぞ」

 そ、そうですね。
 さすがは大魔王様です。

 まったく手が緩んでませんでしたね、と思いながら、はは……と苦笑いする。

「座れ」
「はい?」

「座れ」
と繰り返される。

「……はい」
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