好きになれとは言ってない
 デジャヴだ。

 こんなこと前もあったぞ、と思いながら、怖いので、玄関入ってすぐの床に座ろうとしたが、航と違って器用でない遥は片手では靴を脱ぐことはできなかった。

 すると、航が片膝をつき、片手で、遥の靴を脱がせてくれた。

 ひーっ。
 大魔王様が片膝ついて、ホストのように靴を脱がせてくださるとかっ、と固まってしまう。

 いや、ホストの人ってこんなことするのか知らないけどさっ、とか思いながら、なんとか床に上がり、冷たいそこに正座すると、航も目の前に正座した。

 二人で正座して向かい合う。

 緊張したまま、なにか剣道の稽古でも始まりそうな感じだ、と思っていると、
「古賀遥」
と大魔王様が、おごそかに名前を呼ばれた。

「は、はい」

 航は、逆らえば斬るっ! という目で真正面から遥を見つめ、訊いてきた。

「キスしてもいいか?」

「は……はい?」

「今、はいと言ったな」

「はいっ? って、訊き返したんですよっ」

「では、もう一度訊こうか。
 キスしてもいいか」

 しっ、してもいいかって既に、肩、つかまれてるんですけどっ、と航から逃げようとして、体勢を崩し、後ろに手をつく。
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