好きになれとは言ってない
 いつか見た映画のワンシーンを思い出していた。

 十戒だ。

 海が割れている……。

「なにやってんの、遥。
 早く席、座ってっ。

 それから、大魔王様とのコンパ、呼んでよねっ」
と近くのテーブルに座っている朝子に言われ、遥は、はあっ? と振り向く。

 嫌なんじゃなかったのか、と思いながら、言われた席に着くと、みんな、既に今のコンパの話で盛り上がっていた。

「誰が来るんだろ?
 小堺さんと大葉さんは来そうだよね」

 いつの間にか、先輩女子たちも話に混ざっている。

「大王様の周り、わりとイケメンが多いわよね。
 大王様がダントツだけど」

 そうでしたっけねーっ、と遥は反抗心丸出しで思いながら、ささみの梅肉和えを食べていた。

「目が合って、クビになるのは嫌だけど、行ってみたいわね」
と先輩が言う。

 いや、そんな……目についたもの皆、皆殺しみたいなことはないと思うんですが。

 第一、それなら、まず、大葉さんと小堺さんが殺されている。

 いや、クビになっているはずだ。

「でも、例えば、大魔王様が、俺が嫁にもらってやるから、辞めろとか言ってきたら」

 その先輩の言葉に、何故か、遥は、ぎくりとしていた。
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