好きになれとは言ってない
 今居ないが、本当か? と思いながら訊くと、
「就職したあと、営業に行った先で再会したらしく、やり直して結婚することになったというので返した」
と言ってくる。

「なにかこう、壮大な物語ですね」

 ちょっといい話になったな、と思っていると、
「だから、此処に入ったのは、まどかとお前と母親だけだ」
と航は言ってくる。

 なんとなくその並びに入りたくないんですが……。

「かちょ……

 課長っ。

 ちよっと待ってくださいっ」
と航を手で押さえるが、そのままキスしてくる。

 んーっ。
 ど、どうしたらいいんだ、これっ。

 見た目通りに航の力は強く、逃げられそうにはない。

 だが、遥は必死に抵抗して……

 いや、自分でもなんで抵抗してるんだか、よくわからないんだが、と思いながらも訴えた。

「あのっ、私、酔った弾みなんて嫌ですっ」

 そう言った遥の顔を見つめた航は、この人、本当に酔っているのかな? とふと思ってしまうほどの大真面目な顔で、
「わかった」
と頷く。
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