好きになれとは言ってない
「酔いをさましてくるから、ちょっと待ってろ」
と立ち上がると、冷蔵庫から出した冷えた水を飲み、上着を脱ぐと、外に出て行った。

 こ、この隙に逃げた方が……?
と鞄をつかんだが、いや、置いて帰るのもな、と思い直す。

 逃げたら、明日、怒られそうだし。

 いや、覚えてないかもな、とか考えながら、立ち上がろうとしたのだが、突然のことに、腰が抜けたのか、立ち上がれない。

 我ながら間抜けすぎる、と思いながら、這って戸口近くのキッチンまでいき、シンクを手でつかんで、立ち上がった。

 小さな窓から下から見える。

 航は外に立ち、空を眺めていた。

 さ、寒くないのかな?

 風邪ひかないだろうか、と航が今脱ぎ捨てた上着を手に取ると、まだ航のぬくもりがそこにあった。

 持っていってあげようと、ようやく動くようになった足で玄関に行き、ノブに手をかけたとき、航がドアを開けた。

 すっきりした顔をしている。

 本当に酔いがさめたようだ。
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