好きになれとは言ってない
「ああ、遥。
 まだ居たのか」

 ……まだ居たのか?

 航は外を振り返り、駅の方を見ると、
「終電はもうないか。

 駅まで送ろう。
 タクシーが居るから」
と言い出した。

 ……どうやら、本当に正気に返ってしまったようだ。

 そのまま航に送られ、駅へと戻った。

 タクシーに乗せられ、お金を渡される。

「気をつけて帰れよ」

「お金いりませ……っ」
と握らされたそれを返そうとしたとき、もうドアは閉まっていた。

 仕方なく行き先を告げ、走り出したタクシーから後ろを振り返る。

 航はまだこちらを見送っていた。

 何故だ。
 どうしてこうなる。

 いや、別に襲われたかったわけではないのだが。

 いやいや、ほんとうに……。






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