好きになれとは言ってない
 





 遥は部屋の中をウロウロした挙句、迷って真尋に電話した。

 課長のことに関しては、この人が一番詳しいに違いないと思ったからだ。

「絶対、課長に言わないでくださいよ。
 明日には覚えてないかもしれないから」
と前置きして、今夜の出来事をざっくりと話す。

「あの人、何処まで本気なんですかねっ」
と言うと、真尋は爆笑したあとで、

『俺なら酔ったふりだけど、兄貴の場合、それ、マジだよね』
と言ってくる。

「課長は酔うと、いつもああして女の子を連れ込んでるんですかね」
と恨みがましく言ってしまったのだが、

『いやあ、それはないんじゃない?』
と真尋は言う。

『ふと正気に返ったとき、嫌われるかもと不安になって、そういう態度をとったんだろうね。
 小心者だから』

 いや、仕事のときは、もうちょっと小心になってくださいと思うくらいなんですけどね、と思いながら聞いていた。

 恨みを一身に受けそうなリストラ課長を引き受けるとか、大胆すぎて、不安になる。
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