好きになれとは言ってない
朝、普段通りに出たので、航は電車には乗っていなかった。
顔を合わせたら、なんて言おう、と思いながら、自分の部署に行くと、ばったり航と会ってしまった。
「おはよう」
といつも通りに挨拶され、
「お、おはようございます」
と頭を下げる。
航が通り過ぎたあと、振り返りながら、
なんじゃ、今のはーっ?
と遥は拳を作る。
めちゃくちゃ普段通りじゃないですかっ。
貴方、もしかして、夕べの記憶がなくないですかっ!? と航が消えた廊下を睨んでいると、亜紀が椅子を滑らせ、やってきた。
「ねえねえ、あれから、課長とどうだった?」
と興味津々訊いてくる。
「……どうもこうもありませんよ。
インコと同列に扱われて帰りましたよっ」
「……は?
インコ?」
と訊き返してくる亜紀に説明する元気は今はなかった。
同列。
いや、インコのまどかさんより格下な気がする、と思いながら、健康茶を淹れに、とぼとぼと給湯室へと向かった。