好きになれとは言ってない
「わかってるわよ。
 言ってみただけよ。

 お母さんに翔子(しょうこ)預けて出るって手もあるけど、置いて出るとやっぱり気になって落ち着かないもんね。

 あんたも今、自由を満喫しときなさいよ。

 そうだ。
 あんた、京都行って来なさいよ、あの課長さんと」
と言い出す。

 アイスを落としそうになった。

「……おねえちゃん、あの人はただの隣りの課の課長で、私の彼氏でもなんでもないから」
と言ったのだが、へー、そう、と姉は笑って聞いていない。

「私もアイス食べようっと」
と言いながら、キッチンに行ってしまった。

 課長と旅行か。

 いや……そんな贅沢は言わないから、とりあえず、電車に一緒に乗りたいかな、と思っていると、テレビの中で、何処かの宮司さんが厳かに言っていた。

「でも運を天に任しているだけでは駄目だと思います。
 此処で祈りを捧げ、敬虔な気持ちになって、なおかつ、自分でも行動しないと」

 自分で行動か、と思いながら、時計を見た遥は立ち上がる。
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