好きになれとは言ってない
いつも通り、早くに目が覚めたのだが、航はいつもの電車に乗らなかった。
ぎりぎりの時間の電車に乗ると、混雑していた。
だが、この混雑の中でも知っている人間が居るのなら、見つけられるはずだ、自分の視界の高さなら、と航は思っていた。
しかし、遥は居なかった。
今日は違う車両に乗ったのだろうか。
いつもこの辺りに乗っているようなことを言っていたが。
そう思ったが、駅に着いても、遥が降りてくる様子はなかった。
あの莫迦、更に遅いのに乗ってるんじゃないだろうな、と思いながら、会社に行くと、遥は既に来ていて、給湯室で他の女子社員としゃべっていた。
……何故だ、と思いながら、八つ当たり的に遥を睨むと、びくりとしたようにこちらを振り向いていた。