好きになれとは言ってない
 



 結局、会えなかったな。

 せめて、昼休みは社食に行こう。
 たまたま同じ席になるかもしれないし。

 そう。
 たまたま同じ席になるかもしれないしっ、と昨日のパワースポットで祈っていた女性たちのように念を込めながら、遥は思っていたのだが、給湯室で亜紀に、
「今日はちょっと遠くにランチに行くわよ。
 お昼休みが始まるちょっと前にはもう用意しといて。

 典子たちが車出してくれるから」
と言われてしまった。

「えっ? 今日は……」
と言いかけたのだが、

「なによ、あんた行かないの?」
と脅される。

「この間、あんたもいいって言ってた、タウン誌に載ってた新しい店よ」
と言われ、みんなが楽しみですねー、と言い出したので、断りそびれる。

 しかも、そんな話をしている間に、航が給湯室の前を通り、何故か、こちらを睨んでいった。

 なっ、なんなんですか!?

 なんなんですかっ!?
と思ったのだが、訊くこともできず、隣りの課なので、時折、遠目にその姿を見かけているうちにお昼になった。






< 167 / 479 >

この作品をシェア

pagetop