好きになれとは言ってない
 




「急ぐわよっ」
と亜紀に駐車場に連れていかれた遥が車に乗ろうとしたとき、誰かが、

「あっ、何処行くの?」
と声をかけてきた。

 小宮だ。
 彼も友人たちと食べに出るようだった。

 典子が店の名前を告げると、
「あ、俺も行く行く」
と言い出した。

「あんたの分は予約してないわよっ」
と亜紀が怒鳴ったのだが、

「入れなかったら、近くの店に行くよ。
 女の子、誰かこっち乗るー?」
と言ってきたので、亜紀は早々に、

「誰も乗らないっ。
 はいっ。
 出して、典子っ」
とドアを閉めた。

「小宮さんの前で格好つけるの、やめたんだ?」
と典子が笑っている。

「もういいの。
 ありのままでも、ありのままでなくても、どうせ上手くはいかないから」
と悟ったように言い出した。

「……今の私の希望は、あんたのコンパだけよ、遥」
と呪いのように呟かれる。
< 168 / 479 >

この作品をシェア

pagetop