好きになれとは言ってない
「急ぐわよっ」
と亜紀に駐車場に連れていかれた遥が車に乗ろうとしたとき、誰かが、
「あっ、何処行くの?」
と声をかけてきた。
小宮だ。
彼も友人たちと食べに出るようだった。
典子が店の名前を告げると、
「あ、俺も行く行く」
と言い出した。
「あんたの分は予約してないわよっ」
と亜紀が怒鳴ったのだが、
「入れなかったら、近くの店に行くよ。
女の子、誰かこっち乗るー?」
と言ってきたので、亜紀は早々に、
「誰も乗らないっ。
はいっ。
出して、典子っ」
とドアを閉めた。
「小宮さんの前で格好つけるの、やめたんだ?」
と典子が笑っている。
「もういいの。
ありのままでも、ありのままでなくても、どうせ上手くはいかないから」
と悟ったように言い出した。
「……今の私の希望は、あんたのコンパだけよ、遥」
と呪いのように呟かれる。