好きになれとは言ってない
 



「今日はごめんね。
 なんだかよくわからない感じになっちゃって」
と真尋に言われ、

「いえ。
 お二人の子どもの頃のお話とか伺えて、楽しかったです」
と言うと、

「そういえば、兄貴は酒を吞むと積極的ってなに?」
と訊いてくるので、

「いえ、いつかのあれです。
 課長も酔われると、男の方ですから、やはり、ちょっと」
とアパートに連れ込まれたときのことを思い返しながら言うと、

「あのときも結局、なにもなかったんだよね?」
と一度話したはずなのに、窺うように訊いてくる。

 はい、と頷き、
「お、襲われたかったわけではないんですが。
 ああいう放り出され方もなにやら納得いかないなと」
と呟くと、真尋は、

「俺なら、絶対、放り出さないよ」
と言う。

「そりゃ、真尋さんなら……」
と言いかけたとき、真尋が助手席の背もたれに手をかけて、キスしてこようとしたので、ひゃーっ、と脳天を突き抜けるような悲鳴を上げてしまう。

「ああ、ごめんごめん。
 ちょうど赤信号だったからつい」
と真尋に謝られた。
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